本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

和菓子のアン/坂木司 

デパ地下に出店する和菓子屋を舞台にした美味しいミステリー。

主人公の梅本杏子はお菓子が大好きな丸ぽちゃの18歳である。高校卒業に際し、無駄に大学へ行く気はないがすぐに就職して人生が決まるのも何だかなぁとモラトリアムなことを考えているうちに五月となり、焦った気分でいるところにデパ地下の和菓子屋の求人貼り紙を見てアルバイトに応募、大好きな和菓子に囲まれて働き始める。

そして、上司のお使いでやってくるOLの買い物の不思議さとか、他店のケーキが兄弟のせいで大量に持ち帰られるのは何故かとか、菓子にまつわる日常の謎が鮮やかに解き明かされていくという、なかなかに凝った趣向の和菓子ミステリーである。

何しろ和菓子の話題がてんこ盛りで美味しそうだし、和菓子の由来には見立てや言葉遊びがふんだんに使われているのでミステリーの題材に打ってつけなのだそうだ。

謎解きの内容も犯罪がらみではないし、主人公アンちゃんのキャラクターがふんわりしているし(二十歳前の柳原可奈子が演じればピッタリだ)、和菓子は美味そうだし、なかなか読後感の良いミステリーである。

有能で冷静な女性店長、無愛想ななイケメンの立花社員、バイト仲間で可愛い女子大生のはずの櫻井さんの、それぞれかけ離れた裏の顔など、登場人物のキャラクターも楽しい。

作者の「青空の卵」はドン引きしてしまったが(語り手と探偵役の関係性に、共感できない危うさを感じたので)、本書は大変に良かった。そういえば、本書を女優の杏ちゃんが書評番組で薦めていたが、アンつながりだしなぁ・・・。