本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

秘密の花園/フランシス・ホジソン・バーネット

児童文学の名作であり、ガーデニングも関係している以上、今までに読んでこなかったのが不思議なのだが、とにかく初めて読んでみた。「忘れられた花園」というミステリーが本書を下敷きにしていると言うことで読んでみるべきと思ったのである。そして、コマドリも主要な役で登場しているので、お、鳥にも関係していたのだ(笑)。

親を亡くした娘が親戚に引き取られた先で誰も知らない謎の庭園を見つけ、その手入れに熱中するらしいという大筋は知っていたが、しかし、冒頭から肩すかしを食らうような気分だ。児童文学の主人公と言えば、たとえ孤児でも健気で純真で、というのが通り相場だろう。しかし本作の主人公メアリ・レノックス嬢は、インド駐在の上流社会の両親からはろくに構われず、召使いにかしづかれるのみで育ってきており、わがままで横柄でみっともなくてというドはずれっぷりだ(笑)。

義理の叔父であるアーチボルト・クレイヴン氏に引き取られたメアリは、当初は女中のマーサに威張り散らすのみだったが、健康な田舎娘であるマーサの感化を受け、多少は人間らしく振る舞えるようになる。そして、庭に出て、マーサの弟ディコン(動物や植物と仲良しという、陽気で純粋な自然の申し子)と遊ぶうちに子供らしい健康を取り戻して行くのだ(しかし強情なところは変わらない(笑))。

クレイヴン氏には気立ての良い美しい妻がいたが十年前に亡くなっている。そして、妻に似た面立ちの息子コリンを疎んじてほとんど構わず、こちらも可哀想な育てられ方をしてきている少年なのだが、ある日、泣きじゃくる少年の声を聞きつけたメアリは持ち前の好奇心と強情さで少年の部屋を探し出し押しかけていく。

メアリ同様にコリンもスポイルされた子供であり、自分が父親と同じ脊柱後湾(せむし)になって早死にするという恐怖にとりつかれ、かんしゃく持ちでヒステリックでわがままでこらえ性がなくて寝たきりという、何ともはやな少年である(笑)。

封印された秘密の花園での遊びを通して健康になっていく二人が読んでいて何とも楽しいが、荒れていた庭がよみがえっていく課程も美しい。手入れをされたことに球根の芽が青々と伸び出しているが、これはメアリとコリンの暗喩ではないだろうか。どうしようもない子供たちがきちんと再生していくというくだりにはいかにも教訓めいたものが感じられ,たとえ最初がドはずれていても、これはこれで正統な児童文学なのかもしれない。