本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

飛ぶ教室/エーリヒ・ケストナー 池内紀訳

子供の頃からの愛読書であり、物語は馴染みのものだが、池内訳があったのは知らなかったので早速読んでみた。

舞台は戦前ドイツの寄宿学校で、10才を一年生として9年生までが在籍している。そこで繰り広げられる友情や克己や悲しみを描いたクリスマスの物語は何度読んでも胸にじんわりと来る。

主人公は、孤児で文才のあるジョニー、優秀な生徒だが勇気も強情さも持っているマルティン、皮肉屋で難しい本ばかり読んでいるゼバスティアン、気は優しくて力持ちなマティアス、臆病なことを気に病んでいるウーリの五人の五年生である。五人はクリスマスの催しとして「飛ぶ教室」というジョニー作の芝居を上演することになっており、その練習をしつつ、巻き起こるトラブルを友情で乗り越えていくのだ。

厳しくも暖かい舎監のベク先生は生徒達に慕われており、ベク先生と世捨て人禁煙さんとの友情も読みどころ。再会の場面が何とも麗しいのだなぁ。

親が貧しいマルティンはクリスマス休暇に帰省出来ず、泣くことを禁じて「泣くのは厳禁」と唱えていてベク先生の注意を向けられるが、ここを「泣いちゃダメ、絶対」などと訳していた光文社古典新訳文庫版があまりにもおぞましかったので、「泣くのは厳禁」にホッとした(笑)。

ベク先生が子供たちに呼ばれるあだ名は、他の作品では「正義さん」「正義先生」などとなっているが、本作では「道理さん」。この辺は訳者のこだわりらしいが、子供の頃から馴染んでいる「正義」の方がしっくり来る気分。

少年たちの友情や悲しみや克己を描いて最後はしみじみ良かったなぁと思わせる名作。ほとんどの人物が誠実であることが心地よいし、随所に含蓄のある台詞があり、読み返す度に発見を新たにするのである。