本・花・鳥(ほん・か・どり)

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点子ちゃんとアントン/エーリヒ・ケストナー

このところケストナーモードに入っているので多分40年ぶりくらいに読んでみたが、大筋のところは忘れていなかった。

金持ちのお嬢さんで活発で突飛で少したがが外れ気味の点子ちゃんと、貧しくても心は豊かで母親思いで賢くて勇気のあるアントンの友情と冒険を描いた名作児童文学。

病気で働けない母親の代わりに懸命に金を稼ぎ、母親のために少しでも暮らしの足しにしようとするアントンの健気さが泣かせるが、この母親は、自分の誕生日をアントンが忘れていたということで暗に非難したりする身勝手さもある。絶望に駆られたアントンの嘆きが切ない(点子ちゃんの機転で事態は納まるが)。

点子ちゃんの父親はステッキ工場の経営者で娘思い。生活は豊かだが、母親の方は社交や観劇に明け暮れて家を疎かにしているような軽薄な女性であり、そこにつけ込まれ、点子ちゃんは家庭教師によって犯罪に巻き込まれかけるが、アントンの機転で事なきを得る。

アントンは、エミールとか「飛ぶ教室」の正義さんと同様、病弱の母親をいたわる健気な少年に描かれており、これはもうケストナーのライフワークなのかもしれない(笑)。それぞれの章末に「勇気について」とか「誇りについて」とか「生きることのきびしさについて」とか、教訓めいたメッセージの付されているのがお説教くさいが、児童文学の書き手として教訓を明確に述べておきたかったのかもしれない。そんなところも含めて、示唆に富んでおり、子供達の友情が楽しい物語である。