本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ろんどん怪盗伝/野尻抱影

みすず書房大人の本棚シリーズ」の一冊。数度の脱獄に成功し、ロンドン子からやんやの喝采を浴びた若き盗賊ジャック・シェバードの痛快な活躍を描いた西洋時代小説とも言うべきか。野尻抱影が「ジャック・シャパード/エインズワス(原文ママ)」を抄訳翻案し、講談のような怪盗伝に仕立て上げたものらしい。

ジャック・シャパードは大工のウッド親方の弟子で、誠実で侠気溢れる人柄ではあったが、両親共に裏街道の人間であり、悪の誘惑に打ち勝てず、ついに盗賊の道へ。ジャックを盗賊の道へ引きずり込んだジョナサン・ワイルドはその世界では有名な悪党で、盗賊密告係という公職にありながら、政争に絡み貴族をゆすって身代を召し上げ、すり・追い剥ぎの頭目として盗賊の上前をはね、海外に当品を売りさばくための代理店を持っているという卑劣冷酷な悪漢である。手下が邪魔になってくると逮捕して絞首台に送ってしまうと言う極悪さで、ジャックの父親もかつてワイルドにはめられて処刑されているのである。
 
ワイルドのもとでめきめきと頭角を現したジャックだが、持ち前の負けず嫌いな性格からワイルドに逆らい、ついに敵対することに。好漢ではあるが単細胞でもあるジャックは、何度もワイルドに逮捕されながら脱獄してみせるが・・・。

岡っ引きが悪党の親玉を兼ねているという形は日本の時代小説にも見受けられるから、それを念頭に置いて書かれたものなのだろう。ジャックの胸透く活躍が楽しい、時代がかったピカレスクロマンである。かつてはジャックの兄貴分で、現在は舎弟分になっているブルースキンの、ジャックに対する義理立ても気持ちよい。初期の浅田次郎作品の感じかなぁ。

しかし、大人の本棚シリーズは高い。娯楽叢書なのだからもう少し値段を抑えればいいのに。ま、本書は貰い物なのだけれど・・・(笑)。