本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

早雲立志伝/海道龍一朗

北条早雲と呼ばれるようになる前、伊勢新九郎盛時が伊豆・相模を切り従えるようになるまでを描いた歴史小説伊勢新九郎の出自についてはかつては西国から流れてきた浪人という説が多かったが、昨今では足利幕府の申次衆ということになっているらしい。


新九郎二十歳の折、姉が嫁いでいる今川家の当主が討ち死にし、跡目を巡って内訌が勃発、申次衆である父の名代として駿河に乗り込むが、奸物の大人たちにいいようにあしらわれ、悔しさを抱えることになる。そして、いつかこの屈辱を晴らしてやると誓うのだった。


不始末の謹慎として禅寺に追いやられることになった盛時は、ここで後の幕府管領となる細川政元と出会う。そして主従とも友情ともつかない縁が出来て、これが大きく将来を左右することに。足利幕府の世継ぎを巡る政争、伊豆に所領を得て今川家の臣下として頭角を現すあたりを迫力ある描写で描いており、非常に読ませる。清爽な若者であった盛時も長ずるに従い苛烈となり、戦いに明け暮れるようになる経緯も迫力だ。


ただなぁ、新陰流の開祖である上泉伊勢守を描いた「真剣」や小田原北条の義兄弟の戦いを描く「北條龍虎伝」にあった、高潔な好漢たちによる熱い魂のせめぎ合いのカタルシスがあまり感じられたなかったのが残念と言えば残念。