本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

徳川三国志/柴田錬三郎

江戸幕府の体制が固まり始めた三代将軍家光の時代に、改易などの厳しい取り締まりで不平分子をつぶしてきた松平伊豆守信綱(知恵伊豆)、巷にあふれる浪人を糾合して牙を研いでいる由比正雪、戦国気分を引きずり、我こそは将軍位を継ぐべきだと考えている紀伊頼宣の三派の争いを、それぞれに味方する忍びたちの暗躍も交えて活写する痛快時代小説である。

昨今でこそ、有能かつ真摯さのある政治家として描かれることもある知恵伊豆だが、ちょっと前までは冷酷卑怯な切れ者能吏という描き方が多かったように思う。それがここでは、剣も使えれば肝も太い、なかなか魅力的なキャラクターになっている。

信綱に味方するのは服部一夢斎一味で、服部一族ながら、公儀隠密とは一線を画しているグループだが、鴉の甚兵衛という飄々とした忍者が楽しい。紀伊頼宣に付くのは根来衆由比正雪の張孔堂一味には山者一族と、忍者同士のチャンチャンバラバラも本書の大きな魅力だ。

ただ、知恵伊豆の行動にぶれが見られたり、三すくみの描き方に緻密さがなかったり、そのあたりが不満と言えば不満である。しかし、やはりシバレンの小説は面白い。

多分20年以上前に読んでいると思うのだが、久々の再読なので内容はすっかり忘却の彼方、 初めて読む気分で楽しんだ(笑)。