本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

星の牧場/庄野英二

本好きのためのSNS本カフェhttp://heartgraffiti.sns.fc2.com/exec/読書会で選書されていた児童ファンタジー。自分ではおよそ手に取らないような本を教えて貰えるのが読書会のメリットだな。

主人公のモミイチは愚直で善良な好青年である。親がいないため親切な牧場主に引き取られていたが、戦時中、南方で過酷な目に遭い、記憶を亡くし、更に軍隊で面倒を見てきた馬ツキスミの蹄の音が聞こえてくるという幻覚を抱えている。それでも牧場主は親切に面倒を見ているし、モミイチが真面目に働く好青年であることに変わりはない。

ある日モミイチは、戦時中に覚えた鍛冶の技を活かして牧場で飼育する馬の蹄鉄を作ろうと思い立ち、燃料の薪を採りに山に入り込む。そして、耳に心地よい笛を吹きながらやってくる男と出会うのだ。楽器の名前を聞いたモミイチはその男をクラリネットと呼ぶことにする。クラリネットは放浪しながら蜂蜜を集めるハチカイを生業としており、自分たちのような暮らしをする人間をジプシーと呼んでいるが、ジプシーたちは非常に音楽を愛しており、満月の夜のまつりには全国からジプシーが集まってくると言う。クラリネットを始め、様々な楽器演奏者のジプシーたちと知り合い、彼らにに魅了されてしまったモミイチは手製の鈴で彼らの仲間に入ろうとするが・・・。

放浪しながらの職能で生計を立てる山の民と思しきジプシーが出て来るのが流浪民好きとしては非常に興味深い。彼らがモミイチのために用意してくれる食べ物も非常に美味そうだ。

救いがあるようなないような、なんとも切ない終わり方であるが、ジプシーたちは異界の人間であり、おそらくモミイチの世界とは相容れないのだろうと思った。