本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

世界でいちばん長い写真/誉田哲也 

主人公の中学三年生内藤宏伸(ノロブー)が特殊なカメラと出会ってちょっと成長する姿を描いた青春小説。

ノロブーは真面目でおとなしい中学生である。気弱で主体性がなくて引っ込み思案なところを馬鹿にされ、ややいじめられている感があり、快闊な幼なじみが転校して以来あまり楽しくない日々を送っている。そこを周りの人たちがそれとなく気にしてくれているのに本人はノホホンと気づいていないところが可笑しい。このダメさ加減がのび太君そっくりだが、そうしたらジャイアンに当たるのは写真部長の三好奈々恵である。超アグレッシブで前向きで高圧的で(時々暴力的で)、ダメ男ノロブーを圧迫するのだが、正義感が強く、あなた任せのノロブーを何かと励ましてくれる。

ノロブーの祖父ちゃんはリサイクルショップを営んでおり、ある日、従姉の温子(二十歳過ぎで元ヤンキーで超美人で超強気)が妙なカメラを引き取ってくる。ブローニーカメラを改造したスリットカメラで、自転することで360度のパノラマ写真が撮れるらしい。試行錯誤でひまわり畑のパノラマ写真をものしてしまったノロブーは、カメラのオーナーがスリット写真のギネス記録を持っている人であることを知り、強気三好部長の後押しで、卒業記念行事として「世界でいちばん長い写真実行委員会」を仕切ることになるのだった。

何事にも主体性のないノロブーがとにかく自分の力で挑むところが読みどころ。ノロブーの軽妙でやや自虐的な独白で展開される地の文や、キャラの立った人物たちとの会話も笑わせてくれる。読み終えてああ良かったなぁと思わせるダメ中学生成長小説(主人公が自分にかぶって思い入れひとしお)。


wikipedia:スリットカメラ