本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ブラバン/津原泰水

1980年前後に高校生活を送ったブラスバンド団員たちの現在と回想をノスタルジックに綴っている。「スウィングガールズ」やテレビ番組の「ブラスバンドの旅」などによるブラバンブーム当て込みのような気もするが、それなりに面白かった。 多少なりとも高校時代にブラバンを経験しているので、楽器の名前を見ているだけで何がなし懐かしさを感じるものだ。

広島県内の高校のブラスバン>ドのOBたちの間で先輩の結婚式向けとして再結成の話が持ち上がり、酒場を経営する他片(たひら)がこの課程を語っていくのだが、楽しかった高校時代を回想するばかりでなく、現在の、年相応に苦労を背負っている状況をだぶらせることで、単なる「昔は良かったね」小説であることから免れている。「高校時代の回想は楽しすぎて、そこから帰ってこられないほどトリップしてしまうのを避けるために忘却というシステムがあるのではないか」という語り手の述懐が秀逸だ。

再結成を前にして事故死している皆元というOGのキャラが面白い。性格悪げで辛辣なのに、なぜか仲間から嫌われず、結構重きを置かれているのである。先輩二人に二股をかけて手玉にとった手口が凄い(笑)。ちなみに語り手の他片とは源平のかたき同士である。

作者は自分より3才下だから、ほぼ同年代の音楽を聴いていたことになる。このころの中高生にとって音楽は必須アイテムだったが、そのあたりの思い入れも懐かしかったりする。必死でエアチェックしていた習慣が、レンタルになり、昨今はダウンロードになってしまっいると思われるが、音楽に対する思い入れも同様にお手軽になってしまったんだろうかなぁ。

思えば、20年ほど前に「ノルウェイの森」が大当たりした頃、団塊世代の作家がこぞって「あの頃小説」を書いていたが、ちょうど自分や津原泰水などが昔を振り返る年代になっているんだろうなぁ。

この小説は現在の生活を重ねているから単なる「昔は良かったね」ではないのだが、現在の生活があるからこそなおさら「昔は良かったね」度が強まるのかもしれない。その辺、年代ごとにターゲットが絞れそうで、やや安易と言えば安易だろうか。