本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

吉野北高校図書委員会/山本渚

本好きであれば中高生の頃に図書委員を勤めた(勤めさせられた)例も多いと思うが、自分もそうなのでこのタイトルだけでぐっと来てしまった(笑)。ライトノベルの体裁だが、ナイーブな男女高校生を描く青春小説の佳作である。

男女が交互に語り手を務めており、それぞれによく描き分けられている。川本かずらは責任感の強いしっかり者の女子で正義感が強いが、それは自己満足に過ぎないのではないかとうじうじ考えたりもする。同級生の武市大地も似たような価値観を持つ好男子で、傍目には似合いと思われたりもするが、決して恋愛に陥ることはない。大地は下級生の上森あゆみとつきあい始めており、二人とも好きなかずらは喜ばしいと思いつつ、置いて行かれる寂しさみたいなものを感じており、このあたりの葛藤がなかなか読ませる。

もう一人の語り手の藤枝高広(口は悪いが根は純情)はかずらのクラスメートであり、たまたま図書室に来ていた高広を手伝いに引っ張り込んだのがかずらだったという経緯がある。マンガとゲームのオタクだった高広は、入学時の派手な奴ばかりのクラスで高校デビューに失敗し、不登校になりかけた過去があるが、それを何とか立ち直らせてくれたのが図書委員長の岸田一(大人の落ち着きと風格を持つ頼れる男。ワンちゃんのあだ名を持つ)であり、かずらに図書室の雑務を手伝わされて高校内に居場所を見つけたというわけだ。当然、高広はかずらに惚れてしまうのだが、簡単にハッピーエンドに持っていったりしないのが上手いところだ。

ワンちゃんも、大地の彼女の上森あゆみもそれぞれにキャラが立っており、台詞回しも面白い。

ユーモラスで切なくて微笑ましい、遠い昔を思い出させてくれるストーリーである。二十歳を前にしている頃の堀北真希の解説もなかなか上手い。「高校卒業後という区切りで読むから、つい最近のことであっても懐かしさを感じる。二十歳を過ぎたらまた区切りになって感じ方が変わるだろう。」という主旨の解説は、ほんとに自分で書いたのかと思ってしまうが(笑)。

カバーイラストはどうも見たような色調だと思ったら今日マチコ女史だった。