本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

青雲遙かに 大内俊助の生涯/佐藤雅美

幕末の江戸、昌平坂学問所で学問(儒教)を修めるために仙台藩から上京した大内俊助は、最初は向学の志に燃えていたが、江戸に馴染むに連れて生活が自堕落になり、朱子学の考え方にも疑問を持つようになる。ほとんどの留学生は、身を立てるための手段として学問をしているのであり、そういうあり方にも疑念を感じているのである。そうして、女がらみで身を持ち崩していく。

このあたり、東京の一流大学に合格し、青雲の志で上京した若者が、東京生活で堕落していくさまを思わせる。或いは、悪女への恋着から何度か失敗した後に幸福を掴む、サマセット・モームの「人間の絆」を連想させたりもした。

蘭学者高島秋帆を陥れようとした鳥井耀蔵の手先を捕まえるに協力するというようなことがあり、江川太郎左右衛門との細い縁ができたりもする。そして、蘭学で人生のやり直しを図る夢を持ったものの、生活に追われ、そのまま生涯を閉じる覚悟でいるところに・・・。

言葉遣いや人間関係の描き方など、不自然かなと思う場面がなくもないが、時代青春小説として、また人生やり直し小説として大変よく出来ていたと思う。俊介の子孫に絡むラストシーンも感動的。