本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

剣客商売/池波正太郎

40年近く前に書かれた時代小説シリーズの第一巻で、今更何を言わんやの名作だが、今まで第一巻の本作しか読んだことがなく(今回で三度目)、今度こそはシリーズを完読するぞと読み始めた。

泰平の江戸ではあまり出番のない剣客親子の物語で、腕を活かして様々なトラブルを解決するという、言わば連作ハードボイルド的な構成。剣客とトラブルシューターという点で藤沢周平の用心棒日月抄シリーズと似通うが、別にどちらかがどちらかを真似したと言うこともあるまい。

この親子はどちらも剣の腕が立つが、性格や暮らしぶりが正反対である。小柄な老人である秋山小兵衞は酸いも甘いもかみ分けて飄々としており、若い百姓娘と愛欲に耽る生活を送っているが、事が起きれば冴えた腕と頭脳で見事にトラブルを解決してみせる。ひたすら剣術に撃ち込む息子大治觔は純朴誠実な人柄で、正反対の親子の対照が面白い。田沼意次の妾腹の娘である佐々木三冬(男装の女剣士で、小平に惚れ込んでいる)も絡んで、飽きさせない物語である。

著者の鬼平犯科帳シリーズ同様、ご都合主義に流れる場面もあるが、全体の雰囲気を楽しめばいいので、あまり堅いことは言うまい(笑)。