本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

日蓮/佐藤賢一

西洋史を舞台にした歴史小説がメインと思われる佐藤賢一は、「新徴組」「女信長」など日本史を舞台にしたものも書いているが、日蓮を主人公にして書いていたとは知らなかった。


全寮制の公立高校をドロップアウトして拾ってもらったのが日蓮宗系列のお気楽三流私立校で、一応宗教の授業もあり、日蓮の事績を勉強したりもしたので、この異能の宗教家に対して個人的な思い入れがある。


千葉の漁村に生まれ、幼いころから利発で、僧侶となるべく寺に入れられると勉学に励み、さまざまな経典を研究した末に日蓮が辿り着いたのは法華経を唯一信奉するべきと言う信念である(今風に言えば「法華経しか勝たん」と言うところか)。


当時は念仏信者が多かったため念仏を排斥したがために故郷にいられず、鎌倉で布教することに。そして法華経最高と主張し続け、それがために弾圧されることにもなるが(この辺の事績は知識としてあるのでかなり興味深い)、法難も喜びと受け止め、なおさら布教に励むのだった。


そして、弾圧にもめげず、強い影響力で徐々に信者を増やしていく。あまりにも独善的なのでちょっと鼻白む感がないでもないが、このあたりのスーパーマンぶりが痛快。佐藤賢一独特のリズミカルな文体と相まって、スーパーマン日蓮の異能ぶりが伝わってくる。