本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ラン/森絵都

主人公の夏目環は家族と早くに死に別れ、どちらかと言えば死の方に親しみを感じているような若い女性である。人付き合いも苦手だったが、同じように死の影をまとう自転車屋の紺野さんと親しくなる。二人を繋いでいた猫が亡くなり、紺野さんは故郷へ戻ることを決意。そしてが亡き息子のために組み立てた高性能自転車を譲ってくれるのだが、ある日、高性能自転車は勝手に遠くを目指し始め、ついに境を越えてあの世に到達してしまうのだった。


そこで以前と同じように暮らしている家族(両親と弟)と再会。その懐かしさにたびたび冥界へのレーンを走るが、やっぱり亡くなっているおっかない菜々美叔母さんから自転車を元の持ち主に返すように言われて奮起。40kmのレーンを自力で走る体力を得るべくランニングを始める。そして、よたよたと走る環を見かけて「君は磨けば光る原石だ」と奇天烈な変人のドコロさんにスカウトされてしまい、妙な連中と関わることに・・・。


家族との関係を見つめ直し、新たな自分になるべく努力する環の努力はつい応援したくなるし、妙ちきりんなチームメンバーのそれぞれの事情も興味深い。ドタバタと走り始めた人たちが切なくも輝かしいファンタジックなスポーツ小説。