本書の主人公柿生浩美は「シンデレラ・ティース」の叶咲子の友人であり、冒頭、夏休みのアルバイトを一緒に探しているという同じシーンから始まる。
浩美は大勢の弟妹の世話をしてきたしっかり者で、一本気で責任感の強い性格である。弟妹の手が離れて暇になり呆然としているあたりは空の巣症候群の主婦と同じ感じ(笑)。石垣島でのペンションでのアルバイトを見つけて旅立つと、何とも居心地のいい職場で、快適に過ごしているが、オーナーが世話になった那覇の宿で人手が足りないということで不本意のまま怪しげな宿ホテルジューシーに派遣されるのだった(笑)。
ここで出会う訳ありな客たちにまつわる謎が解き明かされていくというミステリー仕立て。沖縄風に大らかに、悪く言えばゆるみきって生きている宿の人間達が当初浩美には腹立たしいのだが、風土に徐々に感化されていくあたりが面白い。不眠症のオーナー代理は夜中はシャキッとしているが日中は昼行灯で役に立たないとか、脇役達のキャラも立っている。
浩美の生真面目すぎるやり方にツッコミが入ったり、密かなヤバさが潜んでいるあたり、基本的に善良な人間しか出てこない「シンデレラ・ティース」よりも深みがあって面白かった。
- 作者: 坂木司
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/09/25
- メディア: 文庫
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