幕末の騒動が聞こえ始めた木曽の薮原宿で、名産のお六櫛に人生を賭ける登瀬の人生を細やかに描いた時代小説。ほとんど知らない作家だったが、読書SNSでの感想が面白そうだったので関心を持った。
櫛引の名人吾作の娘に産まれた登瀬は父の技に心酔し、自分も櫛を引くことを生きがいにしているが、弟が亡くなり、一家には何かと暗い影が漂っている。母は世間体を気にして娘を早く嫁に出したいと願っているので登瀬が櫛にのめり込む事を快く思っていないし、母について家事を手伝う妹は姉を白眼視している。そして旧弊な因習の支配する世間で女が夢に生きようとすることは難しく、父が登瀬のために嫁入り話を断ったため、ますます生きにくくなる。
それでも父を信じて櫛の修行を続ける登瀬の前に、洒脱で闊達だがずる賢くも映る実幸が父に弟子入りしたかと思うとじわじわと自分の人生に入り込み、不本意な選択を迫られることに・・・。
様々な行く立ての末、苦難の連続の生涯に光明が差し始めたところで物語は終わる。様々なしがらみに引きずられながらも一途に櫛を引く登瀬が清々しく描かれていて、櫛を引く作業も櫛に携わる人間もなんとも崇高に感じられた。一種の芸道小説でもあり、そこに女の一生が絡んでいるので、なにか朝ドラのような感。