本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

武士道シックスティーン/誉田哲也

二人の剣道少女が交互に語り手となり、それぞれの成長を描いていく剣道青春小説。この作家、元々はハードボイルド畑の人で、人が死なない小説は初めてだそうである(笑)。

磯山香織は、反則まがいの関節技も交えたような攻めの剣道を得意とし、勝ち気、負けず嫌い、プライドの固まり、狷介、傲慢、試合とは斬るか斬られるか、尊敬するのは宮本武蔵という、かなり危ない奴である(笑)。中学生全国大会では誤審から準優勝になったと信じており、鬱憤を晴らすために市民体育大会に出場したところ、マイペースでゆったりした対戦相手に負かされてしまう。これこそもう一人の語り手西荻早苗であり、西荻と勝負したさに、敵地・東松学園へと進学する香織であった。

西荻早苗は日舞をやっていたことがあるためか、下半身を動かさない、ゆったりした守りの剣道が得意だが、磯山香織にとっては「あたしを負かした選手」のゆったり加減が我慢出来ない。難癖を付けてはいじめているが、それすらもゆったり受け流してしまうお人好しの西荻早苗である。

あまりにも勝手の違う相手に、何故剣道をやっているのかという迷いを持ち始めた香織は、調子を落とし、スランプに落ち込む。このあたりがこの小説の眼目であろうが、筋道が簡単すぎる。ひねくれ者の小娘が突如熱血剣道娘に変わってしまい、今ひとつ説得力がないのである。ただ、そこに目をつぶれば、非常にユーモラスで痛快な青春小説であり、読後感は爽快、一気読みの面白さだった。

余談だが、栞ひもが紅白二本になっているのはたすきなのだろう。こういう遊びはちょっと楽しい。