本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

おひで/北原亞以子

慶次郎縁側日記シリーズ第三弾。今回も、地道に実直に生きている人間の陥るちょっとした罠や、わずかな幸せを願う庶民の哀歓を情緒たっぷりに描く。

慶次郎の養子晃之助旦那も伝法な同心ぶりが板に付いてきて、親父同様の粋な裁きをするようになっている。浮世絵師の巨匠・歌川国直の子に生まれながら、父親に認められずにもがいていた彫り師の生き方に慶次郎と晃之助の関係を重ねてみせる一編など、実にしみじみと上手いと思う。

「仏の慶次郎」のやり口が気に入らない強気の女空き巣狙いや、絶望している莫連女に佐七が寄せる思いや、同じ女中奉公に入った仲間の不幸を願いながら一生寄り添って生きることも考えている三十路女の葛藤や、貧乏くじを引かされ続けてキレてしまった老隠居を救う晃之助の思いやりなど、いいなぁ、洒脱だなぁ、人情だなぁと思わせる佳篇ぞろいである。