本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

戦国風流武士 前田慶次郎/海音寺潮五郎

加賀前田家の親族で傾き者として名を残す前田慶次郎が主人公の痛快歴史小説。この主人公については「一夢庵風流記隆慶一郎」を先に知ってしまっているが、海音寺作品ということは本作の方が先に書かれたのだろう。

本作では前田利家の甥ということになっている前田慶次郎は、和歌や古典、茶道などに精通する教養を持つが、奇矯の振る舞いが多く、いたずら者として名を馳せている。己に箍をはめようとする大人たちに嫌気が差し、前田利家を真冬に水風呂にたたき込むといういたずらをしでかして加賀を出奔、京の都で風流に暮らしながら、上杉家の重臣直江兼続と友誼を得て上杉家に助力するなど、精強な戦国武士として乱世を渡っていく。

このあたりは「一夢庵…」と共通するが、活躍の事績がやや異なるし、人物の描き方が違う。どちらも自由な魂を持つ好漢を描いているとしても、「一夢庵」の慶次郎が大人の風格を持つのに対し、本作の慶次郎はやや若く、ここから一夢庵へ成長していったのかなと思いながら読むのも一興かもしれない。