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家老脱藩 与一郎、江戸を行く/羽太雄平

「峠越え」「新任家老与一郎(されど道半ば改題)」に続く作品。新しく入ってきた藩主に在地領主が臣従し、家柄家老という特殊職を受け継いでいる榎戸家の嫡子で、剣術の腕もある与一郎を主人公としたシリーズの三作目である。

曲者で食えない父親、才気あふれるあまり策におぼれる質の藩主(養子)、伊勢党、三河衆、関東衆などの派閥がある複雑な藩内政治に翻弄されつつ、のほほんとしながらも頑固な一途さで末席家老を勤めてきた与一郎だが、側室に上がった姉の死の衝撃からアルコール依存症に陥っている。

その治療と、藩主側室の斡旋のために江戸へやられた与一郎は、またしても派閥抗争に巻き込まれ、護衛役の奥山左十郎に匿われて身を隠す羽目になる。その間に敵方が藩主に讒訴をし、ついに上意討ちを向けられることに・・・。

巻き込まれ型冒険小説の手法でもあるだろうか。とにかく踏んだり蹴ったりの与一郎だが、とある女性と恋仲になると言う役得もある(笑)。私領である榎戸郷民から出ている元目付役・奥山左十郎との間柄も面白い。腕が立って皮肉屋で、多少馬鹿にしつつも与一郎のことを心配し、酒毒に冒されているのを必死で介抱するのである。

危機に陥った与一郎と榎戸家だが、最後にとんでもない荒技を敢行する。さすが「本多の狐」という伝奇物で時代小説大賞を受賞した作者だけに、こういう伏線を仕込んでいたのだ。展開に無理が感じられないこともないが、敵とも味方とも付かない御庭番とのやりとりや決死の立ち会いの場面もあり、スリリングでエキサイティングでまずは面白かった。