本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

偉大なる、しゅららぼん/万城目学

琵琶湖にまつわる特異な能力を持つ一族の興亡を描いたドタバタファンタジー

琵琶湖西部の中学を卒業した日出亮介は、琵琶湖沿岸に根を張る有力一族「日出家」の分家筋で、湖東の石走(いわばしり)にある本家に寄宿し、高校に進学することになる。そして、日出本家と、対立する棗(なつめ)家、そして第三の勢力との抗争に巻き込まれていくのである。

これだけ書いていると何やらおどろおどろしさがあるが、そこは万城目作品だからユーモアもたっぷりだ。主人公の涼介はホラが得意でややおっちょこちょいで危機に陥ればおろおろする小心者でそこそこ誠実な普通の高校生である。入学式への途次「高校生になったのだから、ぜひとも彼女が欲しいな。自転車で二人乗りして、追い抜いた男子中学生に、嫉妬と羨望の眼差しを向けさせたいな。おっとその前に、付き合い始めの頃、缶ジュースを飲んでいたら、ちょっとくれる?といきなり横取りされて、ドキドキしてみたい。さらにその前に、告白される二日前くらいかな、あのさあ、日出って好きな子いるの?と異様な緊迫感のながでさぐりを入れられたい。ああ、琵琶湖の神様。どうか、かわいい子といっしょのクラスになりますように」などと妄想しているのである(笑)。

対して、同年の本家の跡取り淡十郎は、小太りの体に妙に整った容貌、泰然自若としていて周囲に無関心で周囲の者を自然と見下す殿様キャラがおかしい。淡十郎の姉清子は輪をかけて傲慢で、この姉弟が何とも魅力的。

日出一族は、相手の心に入り込んで自由に操るという異能を持つ。琵琶湖から授けられた能力ということだが、対する棗家は相手の自由を奪う能力がある。お互いを敵対視する二家は戦国時代からいがみ合って来たが、異能を使って巨利を築いた日出家が金の力で棗家を迫害しているのが現状だ。こうしたところに、第三の勢力がとてつもない力で乗り込んできて・・・。

昔の日本SFの名作を思わせる設定もあり(ネタバレになるかもしれないので書きませんが)、SF心をくすぐる作品である。「湖の民」という伝奇的な設定、サイキックな敵との戦い、切ない友情など、幾つもの要素をぶち込んだファンタジーで、やっぱり万城目学作品は面白い。「プリンセス・トヨトミ」は政治的過ぎたような気がするが(それでも面白かったが)、本書は「鹿男あおによし」的な楽しさだった。