本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

アラミスと呼ばれた女/宇江佐真理 

長崎通詞の娘で、父親譲りの語学力を持つお柳の激動の半生を描いた小説。

お柳の父親は元錺職人である。旗本榎本家と懇意にしていたことから、長崎留学中の釜次郎(武揚)と幼い頃から馴染んでおり、幼心に好意を持っていた。ミミーというオランダ商館に居住する女性を描いた肖像画が版画としてブームになったらしいが、「うちをミミーと呼ばんね」と言うあたり、お柳のおてんばぶりの面目躍如である。

この後、父親が攘夷派に殺され、江戸に出て芸者になったところで釜次郎と再会、男装の通詞として箱館まで同行し、釜次郎とわりない仲になる。

蝦夷の情勢が悪化して無理矢理江戸へ戻され、子供を産むと、榎本の意を受けた部下の世話になり、子を育てていく。その後再会する場面があるが、これが切ない。お互い惚れ合いながらどうにもならない間柄なのだ。お柳と榎本の最後の逢瀬も情緒纏綿。

ただ、男装の通詞という設定が今ひとつ分からないし、ストーリーにも、耐える日陰の女という通俗的なイメージが付きまとう。どうもこの人の書く明治物は今ひとつ分かりにくいなぁ。長編よりも短編や連作で力を発揮する作家ではないかと思う。