本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

Borelo 世界でいちばん幸せな屋上/吉田音

クラフト・エヴィング商會の吉田夫妻の娘という体裁の主人公吉田音が、知り合いの作家志望の円田さんと結成したミルリトン探偵局シリーズ第二弾である(前作は[ミルリトン探偵局1http://d.hatena.ne.jp/suijun-hibisukusu/20161022/p1:title=夜に猫が身をひそめるところ/THINK] )。

今回も円田さんの愛猫シンクが持ち帰る不可思議な物からその由来を推理しているのだが、物語は少しずつ絡まりリンクしながら不思議な円環を形成する。

チョコレートの包み紙(アラビア風デザイン)、主人公が聴いている良質な音楽をかけるFM番組、番組DJがかつて足繁く通っていた輸入盤ショップ、一枚だけレコードを出したカナダ人ミュージシャン、激務のピザショップ皿洗いバイト、過激なスパイス商社、など、挿話なのか主題なのかどちらとも取れそうな感じでミステリアスに展開していくのだが、少しずつ関わっている世界があぁここにつながるのかと、謎解きをされたようで読んでいて妙に心地いい。

音を始め、円田さんも両親もDJもカフェ店主もスパイス商社の石山部長もカナダ人歌手も善意の人ばかりで、安心して読んでいられる。優しく、寓話的で、不条理で、やっぱりなんとなく村上春樹を連想させるのだが、かの世界的作家のように突き放した感はなく、ハートウォーミング。少しだけSF的な要素があり、猫とSFは親和性が高いなぁと思うのである。


夕陽と、夕陽を浴びる建物。