本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ぎぶそん/伊藤たかみ

バンドを組んでいる中学生たちの恋や友情を綴るヤングアダルトノベル。主役になるガク(リーダー、ボーカル、サイドギター)とリリイ(ドラムス)が各章を交代に語っているので、一方的ではない描写がされている。

ガンズ&ローゼスに夢中なガクは、やや狷介な性格ながらギブソンフライングVを持っていてめちゃくちゃギターが上手いという噂のかけるをスカウトしに行く。ベースのマロはかけるを嫌っているのだが、ガクはかけるの超絶テクが必要なので、バンドに加入させてしまうのである。かけるの家は「さやま団地」にあるが、貧困家庭専用なのか、かけるのコンプレックスとして語られている。飲んだくれの祖父や出ていった母など、かけるの家庭は複雑だ。

リリイはガクのことを憎からず思っており、この思いが透奏低音になってところどころ語られている。このもどかしいさが微笑ましい。ガクも同様なのだが、なかなか踏み切れない二人である。

マロとリリイは仲の良い友人で、それぞれにガクを大切に思っているが、ガクがたけるとじゃれあっているのを二人してやっかんでいる場面など上手いなぁと思う。ガクに「リリイは女って気がしない」と言われて、友達なら嬉しい、女として興味がないと言われたなら悲しいというのも複雑な女心だ。ガクがリリイにギターを教えていて弦が切れ、リリイの耳に撥ねるシーンがあるが、リリイの耳が柔らかかっただけでドキッとするガクである(笑)。

かけるの祖父は、戦争に行けなかったことをコンプレックスにしているような飲んだくれの厄介な爺さんで、マロとかけるはこの祖父のことで喧嘩するが、仲直りの電話をしてこいと三十円を放り出すシーンがいい。祖父さんにとってバンド活動がぎぶそんであり、孫のぎぶそん仲間が大事なのだ。

練習中、全然息が合わないのだが、仲間を思いやって「前よりはええやろが。おれらやったら、これでも十分やって」と言ってみせるガクにフライングVが語りかけるシーンがある。

「こんなぐらいでええねんて、あまっちょろいこといってんちゃうぞ。もっとやらんかい。もっとがんばらんかい。おまえらががんばらんのやったら、おれかってもう協力せえへんからな。おれのこと、だれと思うてんねん・・・」「おれは、ギブソンやぞ。ギブソンフライングVやぞ。ええ曲演奏するために生まれてきたんじゃ。ぬるいこというな、ぼけ」

胸のすくような名ぜりふだ。少しふざけながら凄む感じは、ダウンタウン松本人志にしゃべらせてみたい(笑)。

好きなシーンを書き抜いていったらキリがない。それくらい、コミカルで切なくて微笑ましい小説だ。音楽の喜びを描いている点、かけるの家庭環境など、「ビート・キッズ/風野潮」とかなり重なるのだが、家族が主眼の「ビート・キッズ」に対して、恋愛に比重が置かれている点がやや違うように思う。女子の視点を導入したせいかもしれない。