本・花・鳥(ほん・か・どり)

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再会 慶次郎縁側日記/北原亞以子

元八丁堀同心が関わる事件を飄々と綴る、慶次郎縁側日記シリーズの第二弾である。

相変わらず山口屋の寮番として飄々と暮らしている慶次郎だが、そういう男にこそ妙な依頼ごともうってつけなのか、もめ事の方からやってくる。だが、ほとんどの事件の解決に慶次郎が直接関わるわけではない。ほんのちょっとだけ慶次郎や義息の晃之助が関わり合うだけで、当事者たちのその後がどうなるのか気になるのだが、それも語られない。読者をある種欲求不満にさせるのだが、それもまた手口だろう。筋運び、会話の妙、人情の機微など、もう何とも言えず情緒あるシリーズである。

出色なのは、前作同様、蝮の吉次と呼ばれる岡っ引きである。人のあら探しをしては小遣い稼ぎをするひねくれ者だが、純粋な部分や人の良さも覗かせていて、妙に魅力的だ。

吉次が脅そうとしたのは、親切ごかしに孤独な年寄りに近づいてけちな盗みを働く若者である。甘ったれた我が儘者ではあるものの、決して芯からの悪党ではなく、孤独な年寄りの方も分かっていながら憎からず思っていて、ゆすろうとしても仕事にならない。妙に仲良さげな二人を見て、毒づきながら去っていく終末のおかしいこと(笑)。ユーモアと人情に苦みのスパイスがまぶされ、極上の味わいである。

辰吉、慶次郎、吉次と、その昔に訳のあった女たちに振り回される「再会」も、つくづく大人の小説だなぁという感じだ。