本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

階段途中のビッグノイズ/越谷オサム

主人公の神谷啓人はやや気の弱い、まじめなロック少年である。所属していた軽音楽部の上級生が覚醒剤で逮捕されるという不祥事があり、軽音楽部の廃部が決定。思考停止のまま後かたづけをしているところに、馬鹿な上級生に嫌気がさして幽霊部員になっていた、短気の九十九伸太郎が「このまま廃部でいいのか」と声をかけてくる。二人で校長に掛け合いに行き、ある程度の管理と制約を受けることで一応の存続が許され、成果を出すための二人の奮闘が始まるのだった。

白い目で見られながらの勧誘活動は、やがて、超絶テクニックを持ちながら仲間との軋轢でバンドを止めている嶋本勇作(天衣無縫でマイペースなわがまま男)と、ヒステリックな顧問に嫌気がさして吹奏楽部を止めたパーカス担当の岡崎徹(悠然とした、気の良い大男)となって実を結ぶ。共に音楽の楽しさに憑かれた少年たちである。

読了する前から結末は分かっている。「青春デンデケデケデケ芦原すなお」「ビート・キッズ/風野潮」「ぎぶそん/伊藤たかみ」等の音楽ヤングアダルト小説同様、最終的には演奏が成功して幕が閉じられるのだろうから、そこまでにいかに読ませるかがこの手の小説のポイントだろう。この作家は、ファンタジーノベル対象を受賞した「ボーナス・トラック」でもそうだったのだが、どこか不器用であか抜けない感じがある。それがこの場合良い方に利いているのかもしれないが、やはりもどかしい(笑)。

強硬に廃部を主張した森淑美という強権な若い教師がいる。逮捕された上級生の担任だった女性で、ことさら厳しい管理を求めてヒステリックに描かれているが、そもそも逮捕者を出したクラスの担任が、担任を外されもせず、このように大きな顔をしていられるものだろうか。この厳格さには、上級生の喫煙を見逃し、更には甘い雰囲気に絆されていたからと言う後悔があるのだが、それを許容する校長(とらえどころがないが人物的に大きい)もどうかと思う。せめて「罪のない生徒を憎むべきではない」くらいは言って欲しいものだ。

誰もなり手がなかった軽音楽部顧問を引き受けてくれたのがカトセンで、無気力で存在感薄く、授業時間は学級崩壊しているような教師だが、良い味を出している。森淑美なんぞよりこっちにポイントを当てれば良かったのにと思う。

途中、首をかしげるような展開もあるけれど、読後感の良いバンド青春小説である。こういう小説を読むと音楽っていいなぁとつくづく思う。