本・花・鳥(ほん・か・どり)

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鬼しぐれ 花の小十郎しぐれ剣/花家圭太郎

戸沢小十郎は戦国の気風を残す傾き者の生き残りである。腕は柳生宗家に引けを取らぬほどに立ち、口は嘘・出任せを言わせれば天下一品、度胸も器量も大きく、羽州佐竹家に籍を置きながら大御所秀忠の囲碁指南番を務め、時の老中土井利勝の元には出入り勝手という桁外れな男だ。

本作は、小十郎の活躍を描いたユーモア痛快時代小説「花の小十郎シリーズ」の、「暴れ影法師―花の小十郎見参」「荒舞―花の小十郎始末」「乱舞―花の小十郎京はぐれ」に続く第四弾である。

三代将軍家光は、このシリーズではすでに我が儘で癇性のバカ殿として登場しているが、弟・駿河大納言忠長との確執いよいよ激しく、父秀忠にとっては悩みの種である。

利勝と二人三脚で二代目を全うした秀忠が身罷り、たがの外れた家光は、忠長と、かつて自分をバカ殿呼ばわりした小十郎を不倶戴天の敵と見なして柳生をけしかけ、柳生は佐竹をつついて小十郎を葬ろうとする。

隆慶一郎の諸作品では二代秀忠が陰険な策謀家で、柳生宗矩と組んで悪辣なことをやっていたが、本作はそれが家光に変わった感じである(笑)。

バカ殿なりに道理を説けば通じると思っている土井利勝松平信綱、沢庵和尚などが何とか家光を善導しようとしているが、小十郎は「バカを利口者として扱うのは間違っている。」と、幕府と将軍相手に胸透く大喧嘩を仕掛ける。喧嘩屋の面目躍如だ。

何と言っても飄々とした小十郎がこのシリーズの魅力だろう。ほら吹きで喧嘩好きで、いい加減のように見えるが意地と筋を通すためには命も懸ける、けどれもやさしいお人好しでもあり、何とも気持ちよい。