本・花・鳥(ほん・か・どり)

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柳生薔薇剣(やぎゅうそうびけん)/荒山徹

荒山徹は、柳生家を狂言回しにして、戦国末期から江戸幕府初期の日本と朝鮮の対立関係をけれん味たっぷりにおどろおどろしく描く伝奇時代小説の名手だが、今回は柳生の女剣士が主人公になっている。

この小説の時代背景として回答兼刷還使がある。後には朝鮮通信使という名称になるが、三代将軍家光の代になる頃まで、文禄慶長の役で日本に連れてこられた朝鮮人捕虜を連れ返す行事があったそうだ。

肥後藩士貴月主馬は、幕府への阿りから藩主より妻になっているうねを差し出すように命じられるが、うねはこれを拒否。主馬とうねは息子を連れて脱藩し、朝鮮との縁が切れると信じて東慶寺を目指す。

しかし、朝鮮との不和を起こしたくない西の丸の大御所秀忠や土井利勝は、東慶寺からうねをあぶり出そうとし、逆に家光は柳生を使って東慶寺を守ろうとする。政治的な野望に燃える宗矩は、出世の好機とにらんでここぞとばかりに張り切ることになる。

ここに登場するのが柳生矩香という女剣士。宗矩の娘で、剣を取っては名手十兵衛よりも、父宗矩よりも上を行く女傑であり、男子禁制の東慶寺を守るべく送り込まれるのだった。

本丸・西の丸の争いは、宗矩の策略と矩香の剣で本丸が勝ち、利勝も己の非を覚るが、それで収まらない朝鮮側の使者は、駿河大納言忠長に接近し、柳生と、そして矩香と因縁浅からぬ魔剣士・幕屋大休が召還されることになる。ここらまでは伝奇色はなく、普通にチャンバラ小説なのだが、2/3を過ぎたあたりで妖術師が登場し、やっと荒山作品らしくなってきた(笑)。

ことさらに朝鮮側の理不尽を言い立てるのは「拉致」を念頭に置いてのことだろう。いかにもこの著者らしい歴史観だが、今回はうねと矩香という女性を主眼に起き、やや新境地かもしれない。但し描き方は今ひとつ不自然。