本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

江戸売り声百景/宮田章司

寄席で江戸の売り声を持ち芸としている著者が、江戸の売り声や浅草について語った聞き書きである。

昭和40年代までは流して歩く振り売りの売り声が聞かれたそうだが、そういう生の体験があればこそ、芸としても生きてくるのだろう。啖呵売、泣き売のような香具師の手法から、サクラソウ朝顔を売り歩く江戸の苗屋まで、扱う範囲は幅広い。

自身が江戸の商売についてもよく勉強しているようで、守貞漫稿を引用しながら解説している。惜しいのはやはり文字で読んでも風情が伝わらないことだが、付録としてCDが付いており、情緒のある苗屋、けたたましいはしご屋、妙に明るい薬売りなど、とても楽しく聴くことが出来た。

ああいう売り声の歴史は、中世の芸商人に遡るというのが新知識である。寺社や辻角などで、何か芸をして見せた後に物を売ったそうで、ガマの脂売りや紙芝居に通じるような気がする。連綿と歴史が繋がっているのだなぁ・・・。

昨今の売り声と言えばさおだけ屋と石焼き芋だが、大音量で流して回る奴らには、風情など欠片もない。特に石焼き芋など、夜の9時過ぎに非常識な音量を出しており、迷惑この上ない。江戸売り声の風情でも見習え!と言いたいものである(笑)。あ、家電無料回収というのもあったなぁ・・・。