本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

悪いやつら/東郷隆

謀将宇喜多直家という副題が付いている。

児島高徳の末裔だという名家の祖父は、同僚・島村貫阿弥に誅され、流浪の末父親は放蕩者として死に、自分は牛飼いの身分で愚人として馬鹿にされている八郎(直家)だが、仇敵の目に止まらぬよう、復讐の野望を胸に秘めながらにひたすら愚人を装い続けている。

宇喜多家の祖父を慕う武士地侍の類は八郎に希望を見出し、糾合の旗頭として八郎を担ぐことにする。八郎自身よりも、この連中の動きを中心に描いている感じである。服部(はとりべ)、西須恵など、古代の職制を思わせるような姓を持つ地侍や、慕露と呼ばれる念仏集団など、中世的な雰囲気もまた楽しい。

水軍や他領主との戦いの中で徐々に頭角を現し始めた直家だが、復讐のためには悪になると断じ、ひとの手柄の横取り、食糧不足の折りには他村の倉へ強盗、挙げ句の果てには創業以来の家来を次々に犠牲にしてはばからなくなる。

この当時の「悪」には強いという意味があったはずで、「悪いやつ」という意味に使うのはどうかとも思うのだが、まぁ、八郎が人変わりする途中までは痛快出世譚として読めなくもない。八郎が酷薄な領主に変わっていくのも読みどころだが、中世から下克上への世の有様が面白かった。

後書きに、道三・久秀が大悪人で、信長・信玄が英雄で、同じようなことをやってきた直家が小悪人呼ばわりされるのは何故か、とあったが、これを読む限り、周囲の人間まで簡単に裏切るようだから悪人なんだろうと思う(笑)。家康とてかなり汚い手を使い、妻子を殺してまで天下人に成り上がった訳なのであるが・・・。