本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

下妻物語/嶽本野ばら 

「ヤンキーちゃんとロリータちゃん」という副題が付いている。映画化もされているし、有名な作品だろう。二人の高校生の交流を中心にした青春小説で、「だって、だって、仕方ないではありませんか」というようなお嬢様風の語り口が妙に気持ち悪良く(笑)、ギャグをまぶしたへんてこな青春小説が展開されていく。

主人公のロリータちゃん竜ヶ崎桃子にとって、ロリータはファッションではなく生き方である。エレガントなのに悪趣味で、ゴージャスなのにパンクでアナーキーロココの精神を今に受け継いでいる訳だ。やくざの下請けでバッタもんを作っていた父親の尻に火が付き、祖母のいる下妻に引っ越してこなければならなかった桃子はあまりの田舎さにあきれ果てているが、それでもロリータを貫き通して生きている。頼りなげな外見とは裏腹に、享楽的なロココを見習う桃子はドライでクールなのだ(父親に愛想を尽かして家出した母親はエリートと再婚することになり、桃子を迎えに来るが、父親といる方が面白そうだからという理由で母に別れを告げた7才である)。

ロリータブランドを買う金欲しさに、父親のバッタもんを処分しようとした桃子の前に客として現れたのがヤンキーちゃん白百合イチゴで(「どーかなにゆえおねがいします」というイチゴのお手紙が笑える)、常に派手で下品なヤンキーファッションをまとっている。この二人、普通ではないところが似ていたりするのだろうか。ドライな桃子にとって友情など何の価値もないのだが、妙に気が合い、桃子の奇怪な体質でパチンコ屋荒らしをしたり、労働は嫌いな癖に刺繍に関しては天才的な桃子がその能力を発揮したブランドでイチゴがモデルになったり、行動を共にしている二人である。

友情など感じていないはずなのに、イチゴの危機に、乗れない原付で救助に赴く桃子が感動的。このでたらめなシーンの何と美しいことか。あり得ないような素っ頓狂な状況だし、作者からして倒錯したような男だからやや度外れているが、爽快で痛快な快作青春小説である。