本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

仲蔵狂乱/松井今朝子

凄まじくも超絶に面白かった歌舞伎芸道時代小説。

長屋の孤児が、長唄と踊りの師匠夫婦のもとに養子として貰われ、歌舞伎役者として大成する人生を描いている。時代小説大賞受賞作で、歌舞伎芸道小説は苦手な分野かなと敬遠していたが、読んでみたら先鋭的に面白かった。

長屋の孤児は、大人に可愛がって貰うために可愛い笑顔を向けるという得意技を持っているが、この、生きていくための切ない知恵がそのまま役者魂に転化されている。養母の厳しい仕込み、陰湿ないじめなど幼児虐待まがいの辛い描写もあるが、逆に養父母との濃い人情、恩人との交情など、ホロリとさせられる部分は時代小説ならではだろう。

声の悪さを踊り仕込みの所作と演技力でカバーし、新しい芸風を打ち立てた歌舞伎役者の痛快ど根性出世物語であるとも言えそうだ。