蒸気機関車や辻馬車が往来し、ビッグベンもあったりするビクトリア朝京都を舞台にしたホームズ物のパロディで、なおかつ不条理ファンタジーである。
寺町通り221Bに居を構えるシャーロック・ホームズは巷間知られた名探偵だが、スランプに苦しんでいた。かつての名声は消え去り、スランプと称して自堕落な生活を送る有り様である。
相棒ワトソンはホームズ事件簿の記録係であり、それによって報酬も得ていたわけで、ホームズの不振は自分の生活にも関わってくるので友人を立ち直らせようと必死。妻のメアリに白眼視されながら孤独に頑張っているのである。
そして、本家ホームズの宿敵モリアーティ教授はスランプ仲間として友誼を結ぶし、本家では依頼人であったアイリーン・アドラーは新たな名探偵としてホームズの前に立ちはだかる。ワトソンの苦悩は増すばかりだ。
ホームズ物の見事なパロディであり、更に当時流行した心霊主義をモチーフに奇々怪々な冒険も繰り広げられる。入れ子構造ともらせん構造とも言えそうな不条理な展開はさすが森見作品という感じだ。果たして波乱万丈の結末やいかに。