著者の出世作であるドクター伊良部シリーズ17年ぶりの新作である。
精神科医の伊良部一郎は総合病院のお坊ちゃま。トドのような体型、無邪気というか幼稚、患者が注射されているところを熱心に見つめる変質チックな性癖と、なかなかに強烈なキャラクターで、とても名医とは思えぬのだが、実はかなり的確な対処で悩める患者を救ってしまうのである。
無礼な真似をされても怒ることが出来ず、過呼吸を起こしてしまう男、株で儲けてしまったがために孤独を噛み締めている億万長者、広場恐怖症のピアニスト、故郷では快活でいられるのに都会になじめず引きこもる学生など、悩める患者たちを奇抜な方法で救ってしまうドクター伊良部の活躍は痛快無比。なんともカタルシスのある一冊である。