本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ザリガニの鳴くところ/ディーリア・オーエンズ

2021年本屋大賞翻訳小説部門第一位に惹かれて読んでみたらとんでもない傑作だった。湿地で孤独に生き延びざるを得なかった少女の成長物語であり、殺人疑惑を巡るミステリーであり、法廷小説でもあり・・・。


物語は1952年から始まり、ノースカロライナあたりの湿地で暮らす貧乏な一家の末っ子カイアが主人公である。父親は酒乱のDVで、まず母親が出て行き、年の離れた兄や姉も徐々に家を出て、最後にカイアだけが父親と残される。脅えながら暮らしていたカイアだが、その父親もいつか帰らなくなり、ついに孤独に。10才程度で独りで生きなければならなくなった。貝を掘り、魚を燻製にし、それを黒人の営む雑貨商で買い取って貰い、何とか食料を手に入れるという生活。正に少女のサバイバルだ。街の人からは差別されても何とか生き抜くカイアが健気。


成長の途上、兄の友人であったテイトと関わるようになり、文字を教えて貰い、本を与えて貰うと、独学で知識を身に付け、湿地の生物のコレクターともなってしまう。心を通じ合わせた二人だったが、テイトの大学進学を機に疎遠になってしまい、再びカイアは孤独に。カイアは何度も孤独と向き合うことになるが、この孤独が常に物語の通奏低音であり、カイアの心の叫びである。そして、孤独から街のどら息子チェイスと関わることになってしまう。


同時並行して1969年の不審死が語られる。チェイスが湿地の櫓から転落死し、周囲に足跡などがなかったことから保安官が殺人を疑う。そして目撃証言などからカイアが容疑者に。チェイスのクズっぷりが明らかになっていく。


誠実な弁護士が付き、保安官や検察が用意した筋立てをいかにも作り物だという風に主張してくれるのだが・・・。


詩情溢れる圧倒的な自然描写と、少女の成長と、二転三転するミステリーの面白さが渾然一体となった大作である。