本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

マイ・ブルー・ヘブン/小路幸也 

賑やかな大家族の古本屋に起こる日常のちょっとした謎を描いたホームコメディミステリー「東京バンドワゴンシリーズ」の第四弾だが、本作は、語り手である堀田サチ(本編では幽霊として一家を見守っているという設定)の意外な過去が描かれる前日譚。ユーモラスな筆致は相変わらずだが、ミステリーと言うよりも謀略小説の色合いだ。

子爵五条辻家の令嬢咲知子(冷静沈着なので「動ぜずのサッちゃん」の異名を取る)は、終戦直後、父親から密書の入った箱を託され、何としてもこの箱を守れと厳命される。しかし、これを利用しようとするあまたの勢力が付け狙い、咲知子が脱走した直後、両親はGHQに拘束される。そして更に伸びてくるGHQの手から咲知子を救ったのが東京バンドワゴンの主・堀田勘一なのであった。

三作目までは頑固で短気でお人好しの爺さんとして登場するが、若き日の勘一も大して変わらない。ただし、祖父までは政財界で幅をきかせていた一家であり、父親も五条辻子爵と友人だったと言う、実に願ってもない助っ人である。

咲知子は、勘一の新妻を装って堀田家に匿われることになり、さらに勘一の父親の人脈で様々な人間が堀田家に出入りするが、政界につながるブアイソー(武相荘ならん)の手先など、一筋縄では行かない連中ばかりで興味深い。

進駐軍、政財界、裏社会などからの追求をどうしのいで行くか、面白いといえば面白いがかなりご都合主義な感じで、謀略にもあまり深みは感じられず、この小説はやっぱり大家族人情小説として読むのが正解のような気がする。

最後に記される「マイ・ブルー・ヘブン」の歌詞が改めてほろりとさせるが、「狭いながらも楽しい我が家」こそこの物語の真骨頂なのだ。