本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

笑い三年、泣き三月。/木内昇

浅草の胡散臭い見世物小屋に集う訳ありの人たちを描いた戦後芸人小説。


昭和21年、門付け芸の万歳芸人の岡部善造は東京で一旗揚げるべく一座を逃げ出し、上野駅に降り立つと、そこへ浮浪児の少年がカモにしようと声を掛け、善造を引っ張り回して浅草へと導く。


自分の芸に絶対的な自信を持ち、受けると思い込んでいる善造だが、訪ねた演芸場でことごとく鼻先であしらわれる。その途上で見かけた鹿内光秀の屁こき芸に感銘を受け、一緒にコンビを組もうとくどくも、狷介でガラの悪い光秀には冷たく拒絶される。しかし、光秀の伝手で安っぽい実演劇場に居場所を見つけることが出来たのだった。


浮浪児の田川武雄は、空襲で家族を亡くし、ひとりで生きざるを得ない身の上である。自分の殻に閉じこもり、表情を見せず、他人に心を許さないが、底抜けの善人の善造と接するうちに、己を取り戻していく。


戦後復興に浮かれる猥雑な浅草を舞台に、訳ありの人間たちが何となく肩を寄せ合い、それぞれに救いを見つけて行く過程を面白切なく描くストーリーは人情味たっぷりで、読後感のいい戦後小説だった。


笑い三年、泣き三月。

笑い三年、泣き三月。