本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

遠い太鼓/村上春樹 

出版当時以来の再読。「ノルウェイの森」がベストセラーになる前後の3年ほど、ギリシャやイタリアの各地を転々としながら暮らした旅の記録である。

中年にさしかかっている著者は抑鬱のようなものを感じているように思える。滞在した土地の人情や風俗を詳細に綴っていて興味深いが、どこかにペシミスティックなものを感じるのだ。

ユーモラスで小洒落ていてシニカルで気取った文章は、いかにも初期の頃の村上作品を思わせ、その頃のファンだった自分には懐かしいものがある(村上作品はカフカまで)。

イタリア社会の効率の悪さについても詳細に罵っているが、幾ら30年前とは言え、あそこまでいい加減な社会制度で果たして先進国と言えるんだろうか(笑)。このあたりにも何か著者のいらだちを感じるのだがどうだろう。

「暮らすように旅をする」的なキャッチフレーズの旅番組があるが、正にそんな感じの旅の記録である。読む分には大変に面白いが、自分でああいう生活を実行する資力も気力もなく、著者のような人は本質的に放浪者なのだろうなぁと思う。

緑光


葉っぱシルエット