本・花・鳥(ほん・か・どり)

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有頂天家族 二代目の帰朝/森見登美彦

猫の日だから狸小説(笑)。


糺の森に巣くう狸一家、下鴨家の三男、矢三郎の巻き起こすドタバタをユーモラスに描く京都ファンタジー有頂天家族の第二弾。

矢三郎の父は、かつて京都狸界の頭領「偽右衛門」を務めた大物で、面白きことは良きことなりをモットーとして生きていたが、狸鍋として食われてしまったという。何でも面白がる阿呆の血を最も濃く受け継いだのが矢三郎で、お調子者で頭が切れて、狸の上に君臨する天狗に取り入りつつ天狗たちをも騒動に巻き込んでいく。

登場人物のキャラも立っている。長兄の矢一郎は思慮深い堅物だが時には虎に化けて怒り狂う。次兄の矢治郎は蛙に化けたまま戻れなくなり、井の中の蛙として暮らしている。弟の矢四郎は善良な少年である。この兄弟だけでも笑えるが、かつては天狗、如意ヶ嶽薬師坊として勢威を振るうが神通力を失い、落ちぶれて市井に生きる赤玉先生やら、赤玉先生にさらわれて天狗としての薫陶を受け、サディスティックで傲慢で魅力的な半天狗美女となってしまった弁天やら(矢三郎の父を狸鍋にした張本人である)、赤玉先生の養子でかつては親子で戦い、破れて英国に逃亡した二代目やら(偽英国紳士)、下鴨家の仇敵で常に下鴨家を陥れんとしている夷川早雲やら(矢三郎の実の叔父でもある)、元は矢三郎の許嫁で、決して人前に姿を現さずに悪口の限りを尽くす海星やら、おかしなキャラが入り乱れ物語を盛り上げる。

そして不条理なドタバタの後ですべては丸く収まり、あぁ良かったなぁと気持ちよく読み終えることが出来る。面白きことは良きことなりと生きていきたいものだが、これはやはり矢三郎の天性であろう。