本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

僕は、そして僕たちはどう生きるか/梨木香歩 

「空気を読む」「みんなと同じに」「大勢に逆らわない」など、とかく出る杭は打たれる日本の風潮をモチーフに少年少女の葛藤を描いたヤングアダルトノベル。

主人公のコペル(もちろんあだ名)は、やや理屈っぽい、自然観察好きの14歳である。染織家の叔父(大らかなのん気もの)が草木染めに用いるヨモギを探していることを知り、優人(まさとと読むがユージンと呼ばれている)の家を思い出す。小さい頃からの友達だが現在は不登校になっており、開発された郊外に残る森林の中の屋敷で暮らしているのだ。

ユージンの家の屋根裏にある戦前の少年小説に読みふけったことがあるコペルは、波瀾万丈の物語にワクワクしながらも、非常時感で盛り上がる誌面に違和感を持つ。「みんなで一緒に戦い抜こう」というスローガンへの違和感だが、これは序盤に過ぎぬ。

ユージンの一歳上の従姉で、コペルにとっては恥ずかしい過去を握られているショウコも登場し、庭で採取した野草料理で盛り上がるあたりは、いかにも自然に造詣の深い著者らしい展開だし、傍若無人で勝ち気なショーコがなかなかいいキャラだなと思いながら読み進めていくと、心の問題があぶりだされてとても重苦しい展開に。周りからの押し付けによって心を壊された少年少女が悲しい。しかし群れを離れて生きられないことも人間のさがであり、そのあたりに折り合いを付けながらみんな成長していくのだろう。

日本的な情緒にからめたファンタジーが魅力的な著者だが、今回はまっすぐなメッセージを押し出した感。かなり痛々しい筋立てだが、読後感は良い。

ブルセラ援助交際などという言葉が流行った10数年前、社会学者の宮台真司が「ブルセラ援交もいじめも同調圧力だ」と述べていたようなに記憶しているが、ユージンが受けた心の傷は一種のいじめのようなものだし、本作の登場人物のうちの二人はまさにこの同調圧力の犠牲者なのだなぁと思った。