本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

カポネ/佐藤賢一

西洋史を舞台にチャンバラ小説を描く佐藤賢一が、何故か伝説のギャングアル・カポネを採り上げた。前半は、才覚と度胸で成り上がっていくカポネの半生、後半はアンタッチャブルのエリオット・ネスの視点から描かれている。

貧しいイタリア移民の子供アルフォンソは、裏家業を仕切る紳士ジョニー・トリオに認められ、若い衆として頭角を現していく。ジョニーは実業家タイプのギャングで、いち早く密造酒に目を付け、シカゴを主な市場として我が手に納めるのだ。番頭としてこれを仕切っていくのがカポネで、政治家や警官を賄賂で籠絡し、持ち前の愛敬で一般市民にも名を売り、事実上のシカゴ市長として君臨することになる。

カポネの存在を面白く思わない連邦政府財務省禁酒局を作り、ここに登場するのがエリオット・ネスである。ギャングと戦う若きヒーローというイメージが一般的だが、ここでは己を買いかぶっているトンチキなインチキ野郎として描かれて失笑を誘う。脱税で起訴しようとする検事を嘲笑し、ヒーロー気取りで、あくまで禁酒法違反で取り締まろうとするのだ。

カポネをアイドル視し、己を同等の人間と思い込み始めるのは、著者の「双頭の鷲」にもあったパターンだ。自信過剰の二流の秀才は何度かの挫折の後、自伝を出すことでヒーローとしてのイメージが確定したようだが、ここでは酒におぼれる青二才でしかない。

すべてが終わった後のラスト、カポネに恩義をこうむって医師になった男がカポネの妹と話し合うシーンが熱く切ない。この物語はこのシーンのためにあったのではないかと思う。佐藤賢一独特の、妙なリズムの文体と相俟って、義理人情が篤く、クサい人間関係が心地よい。