本・花・鳥(ほん・か・どり)

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古九谷浪漫 華麗なる吉田屋展

古九谷浪漫 華麗なる吉田屋展が銀座松屋で開催されている。NHK新日曜美術館でこの内容を採り上げていて、焼き物好きなので、興味深く番組を見た。

九谷に「吉田屋」風というデザインがあることは知っていた。黄色や緑や青を大胆に使ったダイナミックな絵柄で、現在も似たようなデザインの九谷焼が作られている。この「吉田屋」の大元について、この番組によって知ることが出来た。

幕末に近い安政頃、酒造業者の隠居の風流人・吉田屋伝右衛門が、失われた古九谷を再興しようと職人を集め、自ら窯を開いたものらしい。そしてあの郷宕な磁器が誕生した。隠居の道楽と言えるのかもしれないが、それにしても凄いパワーだ。おかげで家運は傾いてしまったらしいが・・・。その後、経営者が変わったり、藩窯になったりしながら幕末で続き、現代の九谷焼の基礎となったらしい。

あの色遣いは、はっきり言うとそんなに好きではないが、それでもエネルギーは感じ取れるし、緑や青の釉薬は美しいことこの上ない。思えば、加賀友禅などもダイナミックだし、繊細さよりも大胆な方を選ぶのが加賀の美意識だろうか。

以前に「藍色のベンチャー幸田真音」という時代小説を読んだことがある。吉田屋伝右衛門と同じように、焼物好きの商人が職人を集め、彦根の地で湖東焼作成に挑んだ物語だが、苦心惨憺して築き上げた窯は藩に取り上げられてしまい、創業者の手を離れている。江戸時代、九州の陶磁器産地では、重要な収入源である窯の運営には藩が直接携わっていたが、そうではない土地でも、或いは似たようなことがあったのだろうか。

隠居してから起業に挑んだ吉田屋伝右衛門は、現代における第二の人生を示唆しているような感じがある。日本地図を作製した伊能忠敬もそうで、あの偉業は、婿入りした商家を隆盛させ、息子に家業を譲ってからのことである。

伊能忠敬の人生を、井上ひさしが「四千万歩の男」という大長編小説に仕立て上げている。20年ほど前に書かれた作品だが、作者の目論見としては、高齢化社会を鑑み、江戸時代の人間の「第二の人生」を示したかったということだし、更には、日本各地を登場させることで大河ドラマの素材にもなりやすいのではないか、というようなことを書いていたが、これはまだ実現していないようだ。