本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

木挽町のあだ討ち/永井紗耶子

直木賞受賞作の時代小説である。


芝居町の木挽町で行われた仇討ちは、降りしきる雪の中、見目麗しい赤い振袖姿の若侍が仇の無頼者を見事討ち果たしたもので、まさに芝居の一幕のような、効果的な幕開きである。


後日、見事に本懐を遂げた若侍の知り人が、若侍を援助した芝居町の人々に仇討ちの詳細を聞いてまわるという物語構成で、仇討ちの真相が徐々に明らかになるという謎解き的な興味も覚えさせる。


語り手になる芝居者たちの来し方も語られ、これもぐっと読ませる。吉原女郎の子供に生まれ、親に疎まれて育ち、心に業を抱えた元幇間の木戸芸者(芝居の呼び込みをする)、高潔な武士だった筈の父親の変節に失望して出奔した殺陣師、子供を亡くした小道具師夫婦など、それぞれの悲しみを昇華させて再生した今があり、悲しみを知るからこそ若侍に肩入れしてきた心情がぐっと来るのである。


仇討ちの顛末も最後に種明かしされ、おお、そう来たかと言う快作時代小説である。