本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ゼロ、ナナ、ゼロ、ハチ。/辻村深月

語り手、神宮司みずほの幼なじみ望月チエミが母親を殺して失踪した。みずほはチエミを探すべく、縁ある人々を訪ね歩くことに。


みずほは東京でファッション誌のライターを仕事としている。言わば華やかな業界だ。片や地元に残ったチエミは、狭い街中での生き方に充足しており、新しいことを知ろうというような気概はない。いっとき地元に戻っていたみずほは、合コン仲間としてチエミや政美などの地元の有人を持つが、フィールドの狭い生き方に共感はできず、やがて縁も薄れていく。


このあたりの描き方が秀逸。さすがの心理描写だ。チエミをもてあそぶチャラい男の描き方なども虫酸が走るが、やっぱり上手いのだろう。みずほと母、チエミと母の、親子関係の異常さなども本書の読みどころ。こういうところを引っくるめて息苦しくなるほどに濃密だ。イヤミスと呼ばれるジャンルは呼んだことがないが、自分にとっては一種のイヤミス感があった。


みずほが事件の真相に辿り着くくだりはさすが手練れな感じ。謎解きの面白さ満載だし、実に重厚な物語だった。