本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

黒猫の小夜曲(セレナーデ)/知念実希人

高次の霊的存在である「道案内」は死者の魂を「我が主様」のもとに送り届けることを任務としている。魂が素直に従えば良し、この世に未練を残していると「地縛霊」となってなかなか「我が主様」のもとへ行こうとしないので、それを説得するのも役目であるが、上司の気まぐれで黒猫の姿にされ、不平たらたらで地上に派遣された通称「クロ」の活躍を描くファンタジックなミステリーである。

記憶喪失の魂と出会った黒猫は彼女に言いくるめられ、植物状態でいる女性の体に彼女の魂を入れてしまう。そして物理的な相棒を得て、魂の「未練」を解決していくのだ。妙に気取ってドライでプライドが高く、人間を下に見ているクロだが、人間に感化されたのか友情めいたものを感得してしまうあたりがおかしい。

最初の謎は製薬会社の一線を退いた経営者が事故死した件で、事故死した魂の未練を解くのだが、その謎は製薬にからむ大いなる謎の一部分に過ぎず、徐々に話が膨らんでいくあたりがミステリーとしてスリリング。二転三転するストーリーはジェフリー・ディーヴァーのジェットコースター・ミステリーを(ほんの少し)想起させた。

物を言う黒猫(言霊で話すのだが)という設定は魔女宅を思わせるし、得意になって長広舌を振るう悪者はラピュタを思わせるし、明らかにジブリへのオマージュを感じるがどうだろう。

著者は現役の医師だということで、薬学や疾患に対する詳細さはその辺に由来するのだろう。ハートウォーミングでスリリングで、一粒で二度美味しいミステリーである。