本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

バベル九朔/万城目学

一代で様々な事業を成功させた祖父から母親が受け継いだ雑居ビル「バベル」の管理人に収まり、作家になろうと文学賞応募作を書き続けている主人公の巻き込まれる特異な体験を描いたSFであろうか。以前の作品はファンタジー色が強かったが、今回は堂々の異空間SFである。

主人公の管理するビルで盗難事件が発生、そして奇妙なカラス女が出没し始め、追われた主人公は絵の中から異空間へと放り出される。迷路のような世界で非現実的な放浪を続けさせられ、そこに「影」というキーワードが何度も登場するから、何となく「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を想起させる。

物語の解決も今ひとつすっきりしないし、不条理感がだいぶ強いが、妙に執拗な描き方がこの雰囲気と合っていそうだ。堂々の異空間SFである。

バベル九朔

バベル九朔



何の関係もなく、見上げた空の軍用機。