本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

本にだって雄と雌があります/小田雅久仁

とんでもない奇書である。

本好きなら、本棚にいつの間にか知らない本が増えているという経験を持つ人もあろうが、それは本には雄と雌があって繁殖しているからだというのが本書の肝で、生まれてきた子供本(幻書)にまつわる挿話の数々が滑稽に猥雑にそして神話的に語られている。

語り手がまだ幼い息子への手紙を書いている態の本書の主要人物は祖父深井與次郎。タレント政治学者として名を馳せた、冗舌な屁理屈こきの天才の奇人である。幻書の収集家であり、その書庫には今にも飛び立たんと幻書が怪しくうごめいている(幻書には目指す故郷があるのだ)。
 
與次郎の妻ミキはそこそこに名の売れた画家であり、與次郎の冗談にキュートに笑う魅力的な女性だが、この二人の出会いから死に至るまで、幻書との深い関わりがある。

二人と関わりのあるディレッタントな随筆家・鶴井釈苦利は、若い頃にミキと言い争いをしたときにポロピレ攻撃(笑)を受け、永遠に止まらぬ百年しゃっくりを発症してしまった因縁がある。そして與次郎の宿敵として終生関わり、語り手の人生にまで影響を及ぼそうとする・・・。

改行の少ない冗舌な文体は夏目漱石の「猫」などを思い起こさせる。ファンタジーノベル大賞出身だし、森見登美彦同様、冗舌・自意識過剰・シュールの系譜に連なる作家なのだろう。導入部あたりはかなり読みにくい感じを受けたが、途中からはギャグと着想力でグイグイと引き込まれた。本にまつわる本というのはそれだけで興味深いもので、幻書と来ればなおさらではあるまいか。タイムパラドックスSFの要素もあり、不条理ドタバタ小説を堪能した。