警察署も留置所も刑務所もフリーパス、歴代警視総監が厚遇する伝説の怪盗・天切り松が、往事の活躍を物語る痛快ピカレスクロマンの第四巻。
松蔵は、ろくでなしの父親に9才で、東京中の犯罪者に一目置かれる目細の安吉親分に売られ、以来、手下になっている。
いつの間にか十五年が過ぎ、松蔵も、親分は年を取って鈍っただの柔になっただのと生意気を言うようになっているが、温厚な紳士然としながら、いざとなったら官に牙をむき、胸のすくような活躍をしてみせる、侠気あふれる安吉親分は相変わらずかっこいい。安吉一家のおこんや書生常が中堅どころとなり、こちらの活躍も痛快だ。
大正モダンの時代は過ぎ、戦時風が吹き始めてきなくさくなっている世相に翻弄される庶民の純情が切ない。マンネリのせいもあるのか、最初に読んだ時のような面白さには及ばないが、妹分を踏みにじったろくでなし男への慕情と復讐を描いたおこん姐御の一編がかっこいいし、上官を誅殺して銃殺刑になったロートル士官の、妻へのラブレターが何とも哀切で、このあたりは泣かせ節は健在だなぁ・・・(笑)。