本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

太陽がイッパイいっぱい/三羽省吾

高額のアルバイト目当てで土方を始め、仕事後のビールの美味さに取り憑かれてしまったがために大学を休んで型枠解体屋で働き続ける青年イズミを主人公にした青春小説。

猥雑でたくましい男たちのリアリティに打たれ、学生仲間が空っぽに見えてくるイズミであるが、最終的にはその脆さを衝かれていたりする。

しかしまぁ、とりあえずは気の良い仲間たちとの関係が心地よい。
やくざ上がりで、人並み外れた身体能力を持つカン、容姿端麗な若者なのに、なぜか面白がって容姿不端麗な女性とくっつきたがる工藤、リストラ出向のまま現場に居着かざるを得なかったハカセ(病気の子供を抱えている)、現役の中卒不良ムラコシなど、相当に個性的な面々である。

やや理屈っぽいイズミにとって、この心地よい暮らしは甘えでありモラトリアムであることが明らかだが、そのことによって追い込まれることになる。そこのところをもう少し丹念に書き込んでくれれば、優れたガテン系青春小説になっただだろうに、これでは、「楽しかった土方の日々」で終わっていそうな気もする。漫画っぽいカバーイラストも内容を伝えていないように思うし・・・。でもまぁ痛快で面白かった。

この手のガテン系小説としては「居酒屋野郎ナニワブシ/秋山鉄」「鳶がクルリとヒキタクニオ」などが同様に面白かったように思うが、内実が特異なだけに、題材に寄りかかりがちのような気もしてしまう。